もちというサービスにひかれてのことであった。こまかく気を配って、その帰りには米なり、炭なり、必ず何かつむようにしてガソリンを無駄にしなかった。骨折りの多い面倒な稼ぎを、お茂登の才覚と息子たちの体とでこの七八年の間に今井の一家は破産の状態からやっと幾分建て直って来ているところなのであった。
「おっ母さん、心配せんでいい。入営までの半年は俺がうんと働いておくから」
「そうとも! そうして貰わんことにゃどうにもならない」
 在郷軍人会と国防婦人会が先に立って村の鎮守の社で出征家族の慰安会が行われ、お茂登も店を前の家のおかみさんに頼んで出席し写真にうつった。
 背広に折鞄をかかえた髭の男が頭も下げず店へ入って来て、帳つけしているお茂登の傍へずいと寄り、底気味わるい眼付で、
「出征家族はどこでもこれに入るんで……」
と、さながら役所からでも来たように訳のわからない新聞社の名を刷った寄附募集の紙をつきつけるような日もあった。戦がはじまった当座にはなかったことであった。
 源一から安着の報知が届いたのは、出発以来やがて一ヵ月も経とうとする頃であった。落付かなそうな鉛筆の字で、去る二十七日任地○○へ安
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