に居る宣教師の所へ手伝いにやるに限ると思いついた。
 お関はお久美さんを呼んで、
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「今度ね、Y市の人で家へ養子が定まったからその人を迎えに明日の朝立とうと思うんだがね、
 若い者ばっかり家に残してくのも気掛りだから四五日の間お前町の辻さんの所へ手伝に行ってお出で。
 あすこでもこの間赤ちゃんが生れて手無足で居るんだから丁度好いやね。
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と是も非もなく云い渡した。
 お久美さんは総ての事のあんまり突然なのに喫驚しながら、殆ど無意識に、
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「ええ。
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と返事をして、自分達の部屋に来てから始めて落着いた気持になって、今度来ると云う養子の事を考えた。
 養子が来る。
 お久美さんは直覚的に或る事を悟った。
 にわかに世の中が明るく成った様な、自分の体が延びた様な歓びがお久美さんの心を領して、薄暗い灯の下で、白い布に包まれた自分の成熟した体を、喩え様の無い愛しみを以て眺めて居た。
 どんな人だろう。
 目の前には今まで見た若者の顔のすべてが現れ出て、朧気ながら髪の厚い輝やかしい面が微笑を湛えて見えたり隠
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