お関に、
[#ここから1字下げ]
「飛んでもない事でした。
[#ここで字下げ終わり]
位は義理から云ったけれ共、心の中では十人が十人、日頃からのお関や主人に対する鬱憤を晴して呉れた事を快く思って居た。
 其の夜若者共に加えた無礼な仕打ち等が段々知れて来ると、益々山田夫婦には面白く無い噂ばかり耳に入る様に成ったので、急に思い立ってお関は兼てから主人に話してある養子の話を進行させて迎えにY市へ行く事を云い出した。
 主人も此頃は嫌な事ずくめで、自分の立てて居る目算がバタバタとわきから崩れる有様なので、当分気を抜くに其れも好かろうと云うので、僅かの着換えを持って旅立つ事に成った。
 明日立つと云う晩に成ってからお関は急にお久美さんを独りで留守させて置く事を不安がり始めた。
 人家の稀れな所にポツネンと若い娘一人置くと云う事より、お関にとっては、自分の居ない幾日かを恭吉と小女ばかりの中に置くと云う事は必ず何事かを引き起さずにはすまない事だと感じられた。
 留守の間も洗濯を頼んで来ないものではないから恭を他所へやる事も出来ない。
 お関は独りで種々思い惑った末、久し振りで暇が出来たからと云って町
前へ 次へ
全167ページ中96ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング