れて一人もあまさず一所にかたまった若者は、荒い北風と貧しい生活に育てられた野性を隠す所なく発揮して、さわがしく怒鳴りながら折々ワーッと鬨の声をあげた。
彼等は皆極度の亢奮で顔を赤くし目を輝かせて、鍬を振い鋤を握るになれた力の満ち満ちた腕を訳もなく宙に振ったり足を踏みならしたりしながらその単純な胸の中を争闘の本能の意外な衝動に掻き乱されて、一人として静かな我を保って居る者はなかった。
主人夫婦に対する憎しみは喉の張り裂けそうな声となって二階に犇めき上って行った。
或る者は力まかせに階子を足蹴にしたり拳で叩いたりした。
若者共は悪口の種をあさった。
選挙の日、反対党を撲った事
買収仕にかかって失敗した事
その他あらゆるその男の恥辱になる事々を叫びながら、
「殺して仕舞え」の
「覚えて居ろ」の
声をそろえて今にも逃げ路のない二階へ雪崩れを打って躍り込みそうな勢を示した。
あまりの事に暫くの間黙って見て居た娘共は、物凄い叫び声と皆の顔に怯えて、音もたてずコソコソとかたまりあって黒い外へと逃げ出して、息を弾ませながら走り去って仕舞った。
お久美さんは只恐ろしかった。
今
前へ
次へ
全167ページ中89ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング