にも自分達が殺されてでも仕舞いそうになって、納屋の中に農具と一緒にかたくなって震えて居た。
 皆をなだめる筈の恭吉は真先に姿をかくして仕舞って居たし、集まった者の相当な年の者は最初主人が立ち去ると同時に帰って仕舞った。
 すべての様子が皆若者達が暴威を振うに適した状態にあった。
 互の声と激亢に煽られて急造の机を履み倒したり、キリストの絵を裂いたりして居ても二階からは人の顔がのぞきもしなければコトッと云う音さえもしなかった。
 主人と清川は運ばれたばかりのビール瓶を握って階子口の両側に立って、黒い頭の現われるのを待って息をのんで居た。
 お関は半ば失神した様になって戸棚の中にボーッとして居た。
 上と下とで互に相手の現われるのを待って居た。
 上から降りて来る者は誰も居なかった。
 下から昇って行く者は一人もなかった。
 両方の張りつめた心は少しずつゆるんで来た。若者共の叫びは折々思い出した様に繰り返された。
 けれ共彼等の目前には黄色の灯の下に取り乱された貧しい家具と引きさかれた絵が淋しく淋しく霊を地の底に引き込みそうに横わって居るばかりだった。
 十二三の喉が拡がって迸り出る声が無
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