なく。
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と云うと主人は平手で人なみより大きい頭を叩きながら、
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「いや何でもない。
 介わんのさ。
 ま、二階で一杯やるのさ。
 貧亡[#「亡」に「(ママ)」の注記]して居ると酒で憂さ晴しだよ。
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と云って大声で笑いながらドヤドヤと皆なんか小蟻のかたまりとも思わない様子で行って仕舞った。
 若者の憤りは頂点に達して仕舞った。
 どっかの隅で誰かが、
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「何て云うこったい。
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と云ったのが導火線になって十二三人の口からは火の様な罵りが吹き出た。
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「一年もよく化の皮を被り終うせたな、爺い、
 到々尻尾を出しやがった。
「偽善者!
 打っちまえ、打っちまえ。
 何かまうもんか、彼那奴。
「貧亡[#「亡」に「(ママ)」の注記]すると酒でうさ晴しだとよ。
 俺達に、酒は神のいましめ給うた何とかだなんて云いながら、お前だけには許し給うたのかい。
 あんまり馬鹿にしてもらいますまいよ。
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 一人がドカドカと階子口に走けて行ったのにつれら
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