の高まる様だったと思われて居た前の瞬間を不思議に思い浮べて居た。
 急に足元を浚われた様な皆は、始めの間こそ妙に擽ったい様な滑稽な気持になって居たけれ共、しばらくすると、自分達に加えられた無礼に対する反感がムラムラと湧き上って、前よりも一層引きしまった顔を並べて黙り返って居た。
 娘達は大嵐の起ろうとする前一刻の死んだ様な寂寞に身を置いて居る様な不気味さで互に袂のかげで手を堅く握り合ったり肩をぴったりすりよせたりして、何かたくらんで居るらしい若者の群を臆病に折々見合って居た。
 皆の心は怒で波立って居たけれ共、その時主人が最一度顔を出して何か一言、
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「失礼してすみませんでした。
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とでも云えば、
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「いいえ、何。
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と云う丈の余裕は有った。
 けれ共土間で声は聞えながら主人夫婦と客とはなかなか出て来なかったが、二階へ行くに通らなければならないので三人は一かたまりになって皆の座って居る傍を通った。
 白い洋服を着た男は主人を振り返りながら、
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「お集りですね、どうぞおかまい
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