れてあるので、物は方便だとあきらめて、妙な声を出してはアーメンと云うのも聞き捨てて居るお関は、都合さえよい様になるのならと素直に夫の命を守って、折々暑苦しそうに身を揺ったり、足に止まった蚊を無作法な音をたてて打《たた》いたりしながら云い訳に苦しんで居る橋本の金の事を考えて居た。
 自分の傍に引きつけて坐らせてある恭の方を時々見ながら、
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「彼那に止めるのも聞かずに使って仕舞って、一体どうする積りなんだろう。
 使う時は勝手に使っといて、後の仕末はいつでも私にさせるものだと思ってる。
 さかさに立ったって今すぐ彼れ丈のものが右から左へ出るものではなし、若し彼の家で他の人でも頼んだら皆ばれて仕舞うのに、何て呑気な人なんだろう。
 アーメンどころじゃあ有りはしない。
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 お関は、忌々しい様に落着いた様な調子で、
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「神の我々を恵ませ給う事は……
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と云って居る主人を上目で睨んで居た。
 ※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子が来てから不安がって居た問題が又お関の心に鮮やかに成って来て、
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