生」と自分を呼んで有難がって居る若い者が、
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「もう今月はなすっても好いでしょう。
 先々月からズーッとお休みつづけですからね。
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などと几帳面に云って来るので、気乗りもしないがそれ等の者のためにと云う様で木曜日が定められた。
 昼間では働きに出るのに困ると云うので、其の日も夜から開かれた集りには十五六人の者が出席した。
 息づまる様に黄暗い電気の下で、小机だの針箱だのを積み重ねた上に白かなきんを掛けたテーブルをひかえて、落ちそうに目鏡を掛けた主人が小形のバイブルと讚美歌集を持って立った。
 敷く物もなしに取り澄した様子で居並んだ者達は、一種異った気持を持って、禿げ上った大きな額と白く光る髭の有る老人を見あげた。
 いつもの習慣通り家の者は一番後に座って各自に勝手な事を考えながら、壁に掛けられた十字架のキリストの絵だのマリアの石版画を眺めたり、平常馬鹿をつくしてお関に押えつけられて息もつけない様にして居る時とはまるで違って、ほんとに何か出来そうに見えて居る主人を懈《だ》るそうに見たりして居た。
 扇や団扇を話の間に使ってはいけないと云い渡さ
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