は。
「八十円ばかりなんだよ。
生糸だの桑だのを商売にして居る家なのさ。
かなり大きな家なのだよ、彼処いらではね。
だから困ったと云っても其の時限りの話だったんだろうし、それに今年は生糸は戦《いくさ》で下った代りに桑が大変好い価だって云う事を聞いたから、九十や百は何でもなく返せる筈なのだよ。
「まあそう。
そいじゃあもっとどしどし云ってお遣りになれば好いじゃあ有りませんか。彼方の家へも山田の方へも。
「けれども又そうひどくも云えないからね。
「でも証文や何かを皆山田へお預けなさったの。
「証文は私が持って居るがね。
万事好い様におねがいするとは云って置いたのさ。
それでね、お前に一つ云ってもらいたいんだよ。
東京から云われて来たって云う事をね。
「だって私にそんな談判が出来るもんですか。
一口で凹《へこ》まされて仕舞うでしょう。何にも知らないんですもの。
「そんな事あるもんかね。
私より字も書け、読めもする癖に、そんな事が出来ないなんて事はないよ。
ほんとに行っておくれでないかい。
「だってお祖母様。
外の事なら仕てあげるけれど……
「そんな事云わずとさ。
いろ
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