のにね。早いもんだ。
 私の婆さんになるのに無理はない。
[#ここで字下げ終わり]
等と主人に話して行った。
 山田は、矢吹の士族である事にすっかり気を引かれて、
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「そうかい。そりゃあ好い。
 士族なら申し分はないな。此那に落ちぶれても元は斬り捨て御免の御武家さんじゃったんだから、平の土百姓からは養子も出来んと思うとった。
 なあお関。
 捨てる神あれば拾う神ありじゃわい。
 それにお前も前方から知っとりゃ情も移ると云うもんだ。
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と非常な満足でお関の母の心遣いをよろこんで居た。

        八

 その前から※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子の祖母は町の或る商人にかなりまとまった金を貸して居た。
 その男の娘が一年程家に来て居た事から泣きつかれて、今其れだけ拝借出来なければ一家散り散りばらばらに成って仕舞わなければなりません、とか何とか云うので、人だすけだと云って祖母が東京へは無断で出してやったのだった。
 きっと御返し致しますと証文まで書いた正月が過ぎてから幾度催促をしても寄さないので、誰か仲に入ってちゃんと
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