な男に育って居るだろう、ぜひ一度は会いもしたし、出来る事なら家へ入れたいと云う願望がはげしく起って、長い間親知らずで放って置いた大切な息子へ気の毒であったり済まなかったりする気持が一方恭への態度をより丁寧に思いやり深くさせた。
まだ二十三で何処かしら未熟の若い節々がお関に自分の子に対する様な気持を持たせるに充分であった。
暑い日には町への使に出したくない、出来る事なら何にもさせずに楽をさせて置きたいと云う彼女等の階級の頭には先ず第一に起る姑息の愛情に全然支配されて、恭の口軽なのについ釣られて、自分等の内幕の苦しさを幾分誇張してまで話して聞かせる様な事さえもあった。
けれ共恭は何処までもお関を飲んで掛って居た。
お関が自分に対して持って居て呉れる好意を利用しない程自分は気の廻らない人間ではない等と思って居たので十九の時家を飛び出してから此の方彼処此処と働いて歩いた家々の中では一番住みよくもあり勝手の利く落付き場所であった。
お関は恭に対しては実に静かな心持で接して居たのだけれ共、或る日フト恭が小女にからかってさも面白そうに並びの好い歯をチラチラさせて笑い興じて居るのを見ると、又
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