した恭吉の姿が実物以上に立派に見えたのは確かである。お関は非常な興味を以て色白な顔だのまだ一度も砂ほこりを浴びた事のない様な艷やかな髪などを見て居た。
 かなり透明な声、陽気に調子よく吹く口笛、その他荷の中に持って来た何かの横文字の本、何から何までがお関には一種の幼い驚異の種であった。
 何だか「恭、恭」と呼び捨てにして此那仕事をさせて置いて好いのか知らんと云う気にさえなって、出来る丈の好意を以てあつかった。
 出来る丈給金も出し家の者同様にして居るお関は、恭吉が自分に対して下らない悪口を云っても只其れを気の利いた悪戯口と外聞かなかったし、一寸した意見を吐いても只「恭吉は横文字が読める」と云う事ばかりにでも或る尊敬を感じて居るお関には如何にも意味のある立派な心の所有者の様に感じられた。
 山田の主人も恭を今までの雇人とは異って持[#「持」に「(ママ)」の注記]り扱って気持のよい身のこなしや小器用な仕事の仕振りを見ると、
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「家もそろそろ養子の工面でもせんきゃあならんなあ。
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等と云い出したりし、お関も亦重三の事がしきりに思われて、どんな立派
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