飼い、裏の空地に葡萄棚さえ作って朝から晩まで落付く時なくせかせかして居た。
 けれ共豚は子をせっせと産んで行くばかりで、それをどうやったら一番上手な遣り方で儲けられるかと云う事も分らなかったし、葡萄もどうすると云う程は土地の故でならなかったので、夢にまで五円札十円札を見てうなされながらお関は進みも退きもしない貧しさの中に立ちどまって居なければならなかった。
 そんな時に、奉公先から片附けてもらって或る小間物屋の女房になって居たお駒が、顔に出来た腫物のために死んだ夫の一週忌もすまない内にその後を追いかける様にして自分も気病みが元で死んで仕舞った事は種々な点でお関を困らせた。
 たった一人残されたその時十一の娘のお久美さんをどうしても自分の方へ引きとらなければならない事は染々《しみじみ》とお駒の在世をのぞませた。
 主人も「どうせ子供だね、知れたものだよ」と云って居るので到々広い世の中に寄る辺ないお久美さんは山田の「伯母さん、伯父さん」に育てられる事になった。
 お久美さんはお駒よりも却って父親に似て居たので、お関などとはまるで違った顔立ちと体つきを持って居た。
 髪等も房々と厚くてどこか
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