「な、そうだろ。
 だからやっぱり信じとった方がいい。
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 誰もお前『神様、神様』と云うとるものが泥棒だとは思わんもんな。
 そうすりゃあ万事トントンに行くにきまってる。
とお関にも説き聞かせたのでお関もその気になって、
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「うちでもね貴方この頃めっきり人が変りましてすよ[#「変りましてすよ」はママ]、キリスト様を拝む様になりましてからね。
 前には随分気が荒くて困りましたけれど、もうちっとも大きな声も出しませんでね。あらたかなものでございますねえ。
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などと云って居た。
 其那有様で、今は西洋洗濯でまあどうやら行って居るのだけれ共、主人が考えなしにポンポンと借りて来る金を返すにいつも追われる様なので、子供の時分から貧困に頑なにさせられたお関の病的な気持は又もう一度巡って来た変転期にすっかりかたく強められて仕舞ったのである。
 お関は自分達が惨めであればある程少しでもゆとりの有る生活をして居る者が嫉ましくて、彼れでさえあの位には暮して居るのにと思うのが原動力になって、季節季節には欠かさず養蚕をし、利益の多いと云う豚を
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