り和らげられて響いて居たのである。
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「なあに、何でもないさ。
わし等を嫉んで奴等下らん事を云うとる。
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と主人は楽観して居て、自分達に加えられる批難の多ければ多い程自分の仕事は大きな力ある物なのだとさえ考えて居た。
或る時は鉱山師であり或る時は専売特許事務所の主人でありしたけれ共、いずれも只一時の事で、かなり山田の主人として成功した事と云えば七八年前から始めて今に至って居る西洋洗濯であった。
それも大抵の事はお関が切り盛りして顧客の事から雇い男の事まで世話をして居たので漸々今まで続いたので、主人は相変らず選挙運動だ何だ彼だと騒いで居た。
けれ共一二年前からはどうした事か急にキリスト教を盛に振り舞わして何ぞと云っては、
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「それは神の御心に叛く事と云うものだ。
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とか、
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「我々が斯うやって飯を食えるのは一体どなたの御かげだ。
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などと云って居た。
山田の主人はキリスト教は只世間の「馬鹿共」へ対しての方便だと思い、
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