すぐY町[#「町」に「(ママ)」の注記]から今居る村に移ったのであった。
 口利きが確かだからと云うので理屈なしに嫁入って来たお関は勿論自分の夫がどんな人柄だとか何が仕事か等と云う事は余り聞きもしず居たのだけれども愈々一つ家に住んで見ると流石のお関もあきれずに居られない様な事ばかりであった。
 一定の仕事の無い上に絶えず目算ばかり立派に立てて居る主人は何一つとしてまとまった事にはせず、年が年中貧亡[#「亡」に「(ママ)」の注記]に攻められながら「今に何かやって見せるぞ」と云う二十代からの望みをはたすためにあくせくして居た。
 けれ共彼のする事は皆人並を脱れた事ばかりで、出放題な悪口を云って見たり借り倒したり、僅か許りを小作男に賃貸してやって期限に戻さないと云って泣いてたのむのを聞かずに命より大切がって居る一段にも足りない土地を取って仕舞ったりして居たので、遠慮のない憎しみが山田の家へ村中から注ぎかけられて居た。
 若し山田の夫婦がもう少し人間並であったらもうとうに此の村等には居られない程長い間には種々ひどい事も云われて来たのだけれ共、図々しくなって居るお関と無人格な様な主人の耳にはかな
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