話で程近いM町の生糸屋へ奉公に遣らせられた。
M町はY町[#「町」に「(ママ)」の注記]と山一重越した丈の事であったけれ共、まるで世の中の違う程すべての事が都風で、塵をかぶって髪の毛も何も、モチャモチャにして居たお関は、行って七日と立たない内にすっかりM町の生糸屋のお仲どんになりすまして、油のたっぷり付いた大形な銀杏返しに赤い玉のつながった根がけなどをかけて「おはしょり」の下から前掛けを掛ける事まで覚えて仕舞った。
表面のはでに賑かな其処の暮しはお関に如何にも居心地がよくて、あばれでも手荒らでも何処か野放しの罪の無かったのがすっかり擦れて――自分の方からぶつかって擦れ切って仕舞った。
いつとはなしに釣銭の上前をはねる事も覚え、故意《わざ》と主人に聞える様な所で厭味を云う事も平気になって来ると、丁度すべてに変化の来る年頃にあったお関は種々の生理上の動揺と共に段々川を流されて行く砂の様に気付かない内に性質を変えられて来て居た。
その時頃からお関の今だに強く成ろうとも抜ける事のない病的な嫉妬心が萌え出して来て居たのである。
朋輩の仲よしをねたんで口を入れては仲違いをさせて見たり、煙
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