て居るけれど家ではちゃんとして居るからちゃんとお嬢さんにして好い様にしてあげますからって云うんだけれども私そんな事出来るこっちゃあないって断わったのよ。
 変ですものねえ。
「まあそんな事云ったの。
 ほんとにそんな事出来る事《こ》っちゃあない。
 恭だって高が雇人じゃあ有りませんか。
 どんな素性だか分りもしないのに……
 恭も亦あんまりですね。
 仮にも主人の貴女にそんな事まで云うって。
 貴女恭は親切だってよく云うけれ共、一体ほんとに親切なの。
 あぶないじゃあないの。
「ええ、そんなにこわい声を出さずと好い事よ。
 誰もあれの云う事なんか真に受けないから。
 だけれどね、親切は親切だ事よ。
 いろいろ力をつけて呉れるわ。
 それに学問も有るんですものね。
「学問たって中学を出た位なもんでしょう。
「いいえそうじゃあないの。
 どっかの工業学校へ入った年に病気で落第したら頑固な父さんがあんまり怒るもんで自棄《やけ》になって家を出て仕舞ったんですって。
 だから可哀そうな所もあるわ。
 何だかむずかしそうな英語の本も持ってる事よ。
「そりゃあそうかもしれないけれどね。
 あんな人に
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