1−24]子の方を一寸見て下目をしたっきりお久美さんはだまって仕舞った。
 当惑した様な頼りない様な顔を見ると※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子は気の毒になって優しくお久美さんの手を取りながら、
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「尼さんが好い等と云う事はね。
 はたでそう分るものじゃあありません。
 尼さんになったって貴女はやっぱり人間の女じゃあありませんか。
 尼さんになった日から何にも思わず好い事だらけだと思うのはあんまりよく考えすぎてますよ、ほんとに。
 そりゃあね、子供の内から頭を丸めてお経で育って来た人は別です。
 私や貴女位の年から辛い逃場所にお寺をしたって一年と辛棒がなるもんですか。
 きっと、貴女なんかは其の立派な髪に剃刀が触る時にああ飛んだ事をしたと思うにきまってます。
 そりゃあ私、受合いだ。
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と云って笑った。
 お久美さんもつれられて微笑はしたけれ共何だかわだかまりの有るらしい様子で、
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「でも私どうにかしてもう少し楽になりたいわ。
 此頃の様じゃあたまらないんですもの。
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と鼻声
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