っしゃらない事。
「まあそんな事が有ったの。
さあ先月の始め頃って云うと……
ああそうそうあった事よあった事よ。大抵五六日頃でしたろう。
西洋紙に書いて有ったんじゃあなくて。
「ええそうよ、真白い紙で棒縞の透しのついたのだったわ。
「そんならきっとあれだわ。
あんなんならいくら見たってようござんすよ。
何にも彼の人の事なんか一つも云ってなかった筈だから。
「そう。其れなら好かったけれ共。
私の見たのは飛び飛びでまるで分らなかったから割合に心配してたの。
あれだわねえ、こんな事があると、今までどれだけ見えない所へ入れられちゃったか知れないわねえ。
ほんとにいやだわ、私。
「ほんとにねえ。
手紙をかくすなんてあんまり卑怯だわ。
そんな事をして楽しんで居るんですよ、彼の人の事だから。
人が困るのや工合の悪くなるのを見るのが彼の人にとっては此上なく面白い嬉しい事なのですからね。
私共で用心するばっかりだわ。
「用心するってどうするの。
仕様がないじゃあないの。
「そうだけれど、まあそうっと彼の人の気を悪くさせない様に仕[#「仕」に「(ママ)」の注記]するのです。
彼
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