1−91−24]子の思う程はっきり十六のお久美さんに解ろうとは思って居なかったけれ共そう云わずには居られないのであった。
 一日一日と※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子の心は様々な遷り変りをした。
 或時は自分の周囲の者すべてを例えそれが人の命を奪った大罪人でも快い微笑と手厚さで迎えたい時が有った。
 又或る時には世の中の隅から隅までその中に蠢いて居、哀れに小っぽけな自分までが厭わしく醜くて自分の命、人の命などが何のために如何《ど》うしてあるのか無茶苦茶に成って仕舞った時も有ったけれ共、大海の底の水は小揺ぎもしない様に、幾多の心の大波の打ち返す奥の奥には「私のお久美さん」が静かに安らかに横わって居た。
 そしてどんな時でも世話をしてあげなければならない自分で有った。
 お久美さんはよく先の切れた筆でロール半紙にヌメラヌメラとまとまりなく大きく続いた字の手紙を寄こした。
 取り繕わない口調でたどたどと辛い事悲しい事を云ってよこされると※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子の目の前には惨めなお久美さんの様子がありありと浮んで見えた。
 殆ど無人格な様な年
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