の一番大切な人を使って居たと云う事が非常に下等な恥かしい事に思えたので暗闇に座って此上なく改まった気持で、
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「お久美さん御免なさい。
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と云った時以来人にきかれた時以外にお久美さんのおの字も口から出さなかった。
 そしてだまって居れば居る程自分に対するお久美さんが高まり尊く成りまさって行く様に思って居た。
 十四位の時、※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子は丁度何でも世の中のすべての事に神様だの自然の大きな力を感じてどんな物にでも感歎せずには居られない心の状態にあった。
 そのためにお久美さんにやる手紙の中に、まるで祈祷を凝す様な気持で、
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私共はまだ生れなかった先から今日斯うあるべき運命が神様から授けられて育ったのだと思うより外考え様がないと思います。
まるで見知らなかった二人の小さな子供が、彼那に急に彼那にしっかり彼の時彼処で結び付けられたと云う事は只偶然な事の成り行きだと云えましょうか。
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と云ってやった事があった。
 勿論その意味が※[#「くさかんむり/惠」、第3水準
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