居た。
葡萄と云えば藤づるの籠か紙袋に入ったの許りを見なれて居た小さい※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子はまるで南瓜の様に大きい勢の好い葉が茂り合って、薄赤い赤坊の髪の毛の様にしなしなした細い蔓が差し出て居る棚から藤の通りに紫色に熟れた実が下って居るのを見た時はすっかりおどろいて仕舞った。
地面には葉の隙間を洩れて来る夏の日光がキラキラときららかな色に跳ね廻り落ちた実が土の子の様に丸まっちくころっとしてあっちこっちにある上を風の吹く毎にすがすがしい植物性の薫りが渡って行った。
葉ずれの音は※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子が之まで聞いた何よりもきれいだと思った程サヤサヤと澄んだ響を出し、こんなに広い広い園の中一杯に自分勝手に歩き廻る事もかけ廻る事も出来ると思うと空想的だった※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子は宇頂天に成って、自分が、自分でよく作っては話して聞かせるのを楽しみにして居た「おはなし」の女王様になりでも仕た様な浮々した愉快な気持になって居た。
独りで先に入って行ったお関は大変丸々とした頬の美くしい女の子をつれ
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