のかげでお久美さんの呼ぶのは亡くなった両親でなければ自分だと云う事も信じて居た。
 十位の時からの交わりはお互の位置の違いだとか年の違いだとか云う事を離れさせて仕舞って居るので、十九のお久美さんは二つ下の※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子に愛せられ大切にいつくしまれて、困る事と云えば打ちあけて相談するのが習慣になって居て、二人は打ちあけて話して居るのだとか上手く相談に乗って呉れようかくれまいかなどと云う事に関しては何も考えも感じもしない程「一緒の者」と云う気になりきって居た。

 ※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子が十の時二つ上のお久美さんは最う沢山に延びた髪を桃割に結ってまるで膝切りの様な着物の袖を高々とくくり上げて男の子の様に家内の小用事をいそがしそうに立ち働いて居た。
 始めて二人の会ったのは今でも有る裏の葡萄園であった。
 その年始めて一人で祖母の家へ避暑に来た※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子はお関に連れられてそこに来た。
 その葡萄園は低い生垣で往還としきられて乗り越えても楽に入れる程の木戸から出入をする様になって
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