1字下げ]
「だめよ、一寸先生の所へ来た次手によったんですもの。
[#ここで字下げ終わり]
と振り切る様にして又元の雨落ちの所から下へ下りた。
 割合に何でもない様に気持悪く汚れた平ったい下駄を又履いたお久美さんは、裾をつまみあげて体に合わせては小さ過ぎる傘を右手に持つと、
[#ここから1字下げ]
「あさってね。
[#ここで字下げ終わり]
と云うなり内輪にさくりさくりと芝を踏んで拡がってある無花果の樹かげから生垣の外へ行って仕舞った。
 ※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子はお久美さんが居なくなってかなりの時がたつまで、何だかそわそわした誰かがどっかから隙見をして居るのを知りながら見出せない様な気持で居た。

        三

 お久美さんはちっとも奇麗な人ではなかったし勿論不幸な生活をして居るのだから※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子と話が合うと云う頭の発達は少しも仕ては居なかった。
 けれ共十の時から今までのかなり長い間年に二度会うか会わないで居ながらどうしても弱らず鈍る事のない愛情を※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子は
前へ 次へ
全167ページ中25ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング