と座って、堪らなく可愛い者の様にその手を自分の二つの掌の間に押えつけた。
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「どうしたのお久美さん。
 私もう真とに真とに驚いちゃった。
[#ここで字下げ終わり]
と、始めて笑顔に成った時、自然と涙が滲み出て、物を云う声が震えるほどの満足が※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子の胸に滾々と湧き上って来た。
 いつも物に感動した時にきっと表われる通りな、キラキラと眼を輝かせて、顔を赤くして口も利けない様に唇や頬の筋肉に痙攣を起して居た※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子は、じいっとして下を見て微笑して居るお久美さんを、食べて仕舞い度い程しおらしい離されない人だと思って見入って居た。
 平常興に乗れば口の軽い※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子は、斯う云う時に出会うと、殆ど唖に成った程、だまり込んで仕舞って、思いをこめて優しくお久美さんの手を撫ぜたり肩を触ったりが漸々であった。
「此の降る中をお久美さんは来て呉れた」それ丈の事が此の時に如何ほど重大な事件として※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子の心
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