く立ちすくんで居たがやがてそろそろと障子際までずって行くと敷居から脱れそうに早く障子を引きあけて、
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「早くお上んなさいよお久美さん。
さ早く。
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と云うなり、此方へ寄って来たお久美さんの肩をつかまえて揺った。
お久美さんは案外落ついて静かな調子で、
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「駄目なのよ、
足が大変汚れて居るから。
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と云って、低い駒下駄の上に、びっしょりになって所々に草の葉の切れたのや泥のはねた足を見た。
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「じゃ雑巾持って来るから。
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※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子は長い廊下を台所までとんで行って雑巾をつまんで来ると、拭く間ももどかしくお久美さんを引きずる様にして障子の中に入れると、凡そ人間の入って来られる所々を一つも取り落しなくピタリピタリと閉め立てた。
一箇所の風穴も無くて冬の最中の様になった部屋中を見廻して、少しは気が安まったらしい眼付になった※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子は、漸うお久美さんの傍にピッタリ
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