る。
 そこを上手く利用する丈お関は世間を見知った年頃であった。
 所謂正直な者達は難なくその手に乗せられて、多くの者の中には、
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「ほんとにお関さんの様子を見るとどうしたって其那事が有ろうとは思えませんよ。
 一寸でもやましい所のある人があれ程何でもなく落付いて居られるものですか。
 うっかりした事は云われないものですね。
[#ここで字下げ終わり]
等と云う者が出来て来ると、皆が皆いつの間にかその気持になって、
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「ほんとに飛んだ噂の立ったものですね。
 一体火元は何処なのでしょうね。
 お関さんこそ好い迷惑だと云うものですよ。
[#ここで字下げ終わり]
等と臆病らしく自分等の風評を立てた責任を何処かへ押しつけ様押しつけ様と仕始めた程であった。
 お関はつまり勝利を得たのであった。
 自分の技倆に非常の自信を持つ様になったお関はすべての行為を前よりも数倍大胆に大股に行って行ったけれ共、恭吉に対して丈は何となし一目を置かなければならない何物かが有る様に感じて居た。
 この事のあった間中※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子はお
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