様とでもすればそれこそ怪しいんですよ。
[#ここで字下げ終わり]
等と、お関が一々事を分けて弁明して歩く事を十人が十人期待して居たのだけれ共、総てはそれとまるで反対に行って、お関はそんな事があるのですかと云う様なゆさりともしない様子を保ちつづけて、伝えられて行く噂さにビクとも仕ないらしく見えた。
 種々鎌をかけて此那事も彼那噂もありますと云って行ってもお関は静かに笑いながら、
[#ここから1字下げ]
「まあ仰っしゃりたい様に云って居らっしゃるがようござんすわね。
 どっちに扇が上るかはお天道様の御心次第ですからね。今にどうかきまりましょう。
[#ここで字下げ終わり]
と云う許りで、ちっとも周章てた暗そうな事がないので、いつとはなしに噂は下火になりかけた。
 お関は自分の作戦の成功を心で飛び立つ程喜びながら表面はあくまで平静らしく事のなり行きを見て居た。
 お関は正直者が勝を必ず占める世の中ではない事を知って居るのだった。
 人間は妙なもので、偽だと十中の八九までは分って居ても、嘘を云う者が余り押し強くその立ち場を守って居ると、却って、それじゃあ自分の方がと云う怪しみが湧いて来るものであ
前へ 次へ
全167ページ中160ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング