ない所には肉の腐れ落ちて居る様な不気味さを以て暗く、そうでない所は身震いの付く程の黄黒さを以て描き出された。
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「私のする通りにおし。
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 死魚の様な目は大きく見開かれた。
 四つの瞳は冷たい水銀の上に凝りかたまった。
 上下にと引き分けられた厚い唇の間から非常に大きく乱杭な歯と細ー長い列とが現われて消えた。
 腐敗に赴いた死顔の様な二つの顔の筋肉は機械的に延びたり縮んだり、かたまったり、ゆるんだりする度に奇怪な絵の様な物凄く不完全な種々の表情が鎮まり返って居る鏡面に写っては消え、消えては写った。
 暫くの間その意味あり気な運動は繰返されると小さい灯は吹きけされ、外界から洩れ入る薄明りの中に鋭く青白い鏡の反射が一条流れた時小虫さえ憚かる囁きが繰返された。
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「お前は私の子ではないよ。
「ああ。
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        十八

 人々は異常な興味を以てお関を見て居た。
 彼那に云ったら何か云い訳位は仕て廻る事だろうと云う事が各自の頭にあった。
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「あんまり一生懸命で云い開きを付け
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