ました静寂な四辺一杯に拡がって主屋からは主人の大きないびきが重苦しく流れて来て居た。
農具とその他の樽や古箱等の積んである土間の一番の隅に一かたまりの様になってお関と重三が立って居た。
塵の厚く積った様な桶の底に燈されて居る豆ランプはピクピク、ピクピクとひよめいて一息毎に湿った土間に投げ込まれたまま幾年か立って居る廃物を淋しく照し出し、二つの影を魔物の様に崩れて恐ろしく大きく震わせては藁の出た荒壁に投げつけた。
ホッ、ホッと立つ細い油煙の臭いと土の臭味の満ちた中にお関は自分の髪結いに用う大形の鏡を持って立って居るのであった。
お関は鏡を高く持ち上げて互の顔の高さまでにした。
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「あ、お前これをお持ち。
顔をもっとこっちへお寄せ。
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お関は鏡を重三に持たせて自分は豆ランプをかざした。
灰色になった髪の汚なく寝乱れて、横皺の深く刻み込まれた額の下に三角形の目のある鼻の低い猿の様な口元の顔は、世の中の最も醜い者として選ばれた様な若者の顔と並んで長方形の枠の中に現われた。
弱い光線は二つの顔を照すには充分でなかった。
明る味の届か
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