やりこなして行くのが一番利口なのさ。
 生きるために、天道様は人間をお作りなすったんだものね。
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 非常に力強い後援を得た気持がしてお関は床の上に起きあがった。
 そして手を膝にちゃんとのせて、どうしたら巧く事が運んで行きそうだかと云う事を考え始めた心の中には今まで覚えなかった力と快感が満ちて居た。
 やや暫く暗い中にじいっとして居たお関は、
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「ああ、それに限る。
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と云うとさも満足したらしく――自分自身の心の働きを感謝する様な合点をすると、大きな溜息を一つして又床についた。
 けれ共寝付かれないらしくモタモタと体を動かして居たお関は、今度はスーッと音も立てずに起きあがると、白い浴衣の姿を暗い中に気味悪く浮べて影の様に次に並んで居る布団に手をかけた。
 枕の所へ口を押しつけて何か囁いては揺り、揺っては囁いて居ると、その床からムックリ立ち上った黒く大きい影と一緒に開け放した土間の方へ幻の様に裾を引いて下りて行った。
 静まり返って死んだ様になって居る土間に微かなカタカタと云う音とシュッと云う音が聞えたきりあとは前にも
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