舞えばと云う事も真正直に望まれる事であった。
 実際、お関は最後の逃げ場所を死に求め様として居たのである。
 けれ共或る晩、お関は静かに自分の死ぬ方法を考えた。
 種々の前例が目の前に行ったり来たりしたけれ共、一つとしてああそうやってと思う様なのはなかった。
 頸を括ろうか、水に溺れ様か、喉を突こうか…………
 彼れこれと思って居る内にお関は暗い床の中で反物屋の店先に立った様に左から右へそりゃあよくないそれもいけないと死に方を選んで居る非常に滑稽な自分を気づいた。
 お関はこたえられなく可笑しくなって、思わずフフフフと云う笑さえ洩した。
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「死ぬなんて馬鹿馬鹿しい事が出来るものか。
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 そしてお関の頭の中からは死の観念は全く姿を消して仕舞って、どうしたら巧く仮面を被り終せ様かと云う熱心がグングンとこみあげて来た。
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「ああ、ほんとにそうだ。
 若し私が此処で死になんか仕様ものなら、そら見ろ気がとがめて死んで仕舞ったじゃあないかと云われるにきまって居る。
 何と云われ様が死んで云い返すわけにも行かないから、ま生きて上手く
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