に混乱した頭になって仕舞った。
非常に臆病になって蚊のつぶやき程の人の噂にも全身の注意を集めて聞き落すまいとし「お関」と云う言葉「重三」と云う声に霊の底の底まで震わせながらも、外見はちっとも常とかわらない落付き――年のさせる図々しさと虚勢を張り通す事を仕つづけて居た。
実際お関は平気らしく見えた。
少くとも彼女の周囲の者の目は内心の争闘まで見透かす事は出来ない事であった。
お関は平気で居る重三――我が子を見た。
冷笑を以て朝から晩まで自分を見る恭吉の眼を厭った。
何にも知らない様にしてせっせと人の仕事に口を出して町まで汗だくだくで日参して居る罪のない主人を見た。
そして自分の周囲には多くの目が芥一本も見のがすまいと自分等の行動を見守って居る事を考えると、正直な良心の攻めに合って、自分の生きて居ると云う事さえ堪まらない事に思えて来た。
お関は偽らない心で今日死のうか明日死のうかと云う日を続けた。
その時は、自分の死によって今までのすべての悪いと云わるべき行為が浄められるものだと云う様な感じを持って居た。
大病が自分を一瞬に引き攫う事も、天災が此の村全体を無に帰させて仕
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