たった一人で思って居るのであった。
十七
其の頃から村中には、重三に対して種々な噂が立ち始めた。
誰が云い出した事かは知らなかったが、
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「お関さんと何て似て居らっしゃるんでしょう。
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と云う低いつぶやきが皮肉に彼処此処の村人の中に繰り返された。
勿論※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子もそれを聞いて寒い思いをした。
祖母は皆と共に嘲笑って居た。
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「大きい声では申されません事ですけれどね、どことなし似て居らっしゃる所が有りそうでございますね。
そんなにはっきりは分りませんけれど、どうもね。
怪しいものでございますよ。
[#ここで字下げ終わり]
それ等の言葉は、要領を得なければ得ない丈、曖昧であればある丈、物ずきな人間の心に種々の想像を起させて、陰気に低くボソボソとそれで居てなかなか執拗に山田の家を被いに掛った。
云い出した者は勿論、お関や何かに積った悪意を持って居る者共だとは思って居たけれど、お関は気の顛倒する程の恐怖に襲われた。
自分で調える事をなし得ないまで
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