それから暫くして少しずつ気の落着くに連れてお久美さんは普通な口調で、どっかちゃんとした家で自分の居られそうな所を心掛けて置いて呉れと頼んで、重苦しい様な足取りで家に帰って行った。

        十六

 ※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子はお久美さんに就て非常に心配を仕始めた。
 辛い悲しい事ばかりに会って居るので、すべて世の中の事々をどんな事までも暗い情無い方にばかり傾けて考える様に馴らされた心を哀れがらずには居られなかった。
 ほんとにお久美さんが自分で云った通り、外へ出て暮すのも好いかもしれない、彼那家に取り越し苦労ばっかり仕て居るよりも却って他人でも人並の者の中に入って居た方が苦労も少ないだろうし後のためにもなるかもしれないと思ったりしたので、非常に年を取った者の様な地味な気持で三間もある様な手紙を東京の家へ出した。
 不断幾度も話して居た事では有ったけれ共、細々とお久美さんの気の毒な身の上を書き連ねて、どうぞどっか好い所が有ったら世話をして上げて呉れる様にと、涙まじりの願いを母へ送った。
 五六日立ってから来た返事には、お久美さんの境遇には同情する
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