人間と云う人間のすべてが、自分の心をのぞき込んで居る様な、何にか自分を仕様と掛って居るのではあるまいかと云う様な不安が湧いて、どうせ自分はたった一人世の中に放り出されて居るものなのだからと云うおぼろげな投げやりまで育って来て、自分なんかが居たって居なくったって日の出る事はいつも同じだ等と、その年頃に有勝ちな病的な悲哀に捕えられて居た。
「どうせ私」と思って居たお久美さんは、すべてを成り行きのままに委せて仕舞って居たけれ共、※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子に会ったりすると、心の中にたまって居た沢山の愚痴が皆流れ出して、丁寧に掛けられる同情の言葉に又何処か休所の出来た様にも思えたりした。
 其の日も※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子は裏へ出た次手にお久美さんを訪ねて畑道をゆるゆると歩きながら種々の事を話し合った。
 二人共自分達の話すべき事は此ではないと云う事をはっきり意識しながら、何だかその一番の所へ触れるのを互に遠慮して居る様に満たない気持であて途も無い事を喋って居たが、到々お久美さんは思い切った様に、
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「ねえお※[#「
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