91−24]子に会う毎に、云いたい事は有っても云えない苦しさに攻められて居た。
山田の家でも此頃は種々な事がゴタゴタと起って来て、お関の見当違いな怒りを受けてお久美さんや小女は身の置所の無い様に成る事も一度や二度ではなかったけれ共、そんな時には、すこしずつ家に居馴れて来た重三が低い地を這う様な声で、
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「いかんなあ、
まあそう気にせんでおかし。
今に俺も何とかして云うといてやるわ。
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と、如何にも思案の有るらしい様子で慰めたりしたけれ共、そんなにされるとお久美さんは却って、付元気をして、厭な重三の口を利け[#「け」に「(ママ)」の注記]掛ける機会も与えない様にせっせと立ち働いた。
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「彼那獣みたいな男、私大嫌い。
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此頃ではお久美さんは、はっきりその言葉を心に感じて居たので、声を聞いた丈でも自分が情なく成って来るのであった。
重三は勿論お久美さんを見た瞬間から自分の半身になる者だと思って居たので、単純な頭で、お久美さんが自分をさけたり、口を利くまいとして居るのは只自分に対しての羞恥とつ
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