と思うと渋々ながら又戻って行った事さえあった。
極端に、その名を聞いてさえ虫酸《むしず》が走る程山田に悪感を持つ様になった祖母は、そんな家へ行きでも仕様ものなら一生払い落す事の出来ない「つきもの」にとりつかれて仕舞いでもするか、髪の一本一本にまで厭な彼の家の空気が染み込んででも仕そうに感じて居たのだから、お久美さんに会う等と云う事は以ての外の事で有った。
けれ共※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子は会わずには居られなくなった。
時々裏の方へ歩きに出た次手に立ちよって、細い畠道を二人でたどりながら小一時間費す事さえもあった。
重三と恭とに気を奪われて居るお関は、お久美さんに対しては、何か考えて居る所が有るのじゃあないかと思われる程、手をつけずに放って居た。
その御かげでお久美さんは折々それも一週に一二度ではあったけれ共外で立ち話しも出来る余裕を与えられた。
一時間近くも、又時によるとそれよりも長く※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子が出た限《き》り帰らない時は祖母は、又お久美さんの所へ出掛けたのだと云う事は感付いて居たのだけれ共、あんまりや
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