、嘘などを逆《さかさ》に立っても云いそうもない所等は却ってお久美さんに厭な思いをさせる許りで有った。
諦めなければならないと云う事をお久美さんは知って居た。
けれ共彼れ程好く嬉しく想って居た事が斯うまで裏腹に行こうとは余り思い掛けなかった。
大切に育てて居た子を急病で一息の間に奪われて仕舞った時の様な諦め様にも諦めのつかない歎きが心の奥深く染み込んで、重三を見る度にその堪えられない苦痛が鮮やかに浮み上って、お久美さんを苦しめるので有った。
お久美さんは※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子に皆話して仕舞おうかと思っても見たけれ共、自分より年下のそんな事を云いも考えも仕ないで居るらしい者に恥じに成ろうとも知れない其等の事を明すには何だか不安であった。
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「まあ厭だ、
私そんな事知らないわ。
[#ここで字下げ終わり]
と一口に笑われて仕舞いそうに思えて、今まで一言も云った事の無い事を切り出す勇気は無かった。
お久美さんは※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子が何の屈託も無さそうに一日中好きな物を読んで好きな事を考えて、厭にな
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