わり]
と云っては居たけれ共、お関には重三一人の事でさえ荷にあまって居るのだから其の嫁どころの騒ぎではなかった。
 今更仕過ぎたと思わないではなかった。
 重三は山田の主人と一緒に至極大揚に構えて居た。
 傍の者が自分を何と批評仕様が仕まいが、まるで介わずに、自分は自分だと云う様にのろのろと洗場で恭に云いつけられた用事を気が利かなく足しては嘲笑れたり、悪口を云われたりして居た。
 何を云っても笑ってばかり居るので、恭は愚にも付かない事に叱ったりして、お関に対する腹立ちを此の重三を通して療して居た。
 荒れた畑地を耕して麦粥を啜って居た今までに比べれば重三は今の境遇に充分満足して居た。
 僅か許りの水を汲んだり火を燃したりする丈で三度の物は好きな丈食べられ、鼻もひっかけられない様だった自分が兎に角、来る者から、
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「重三さん、御精が出ますね。
「重三さん、お暇が有ったらお茶でもあがりに行らっしゃってはどうです。
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と云われる事は真に気持が好かった。
 只、自分がお関の実の子だと云う事の出来ないのは何となし不都合な事の様では有ったけれ共、それと
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