は一向何処を風が吹くかと云う様にして一緒にニヤニヤ顎を撫でながら笑って居た。
 しまりの無い口元や始終眠って居る様な目を見るとお久美さんの心は暗く成らずには居られなかった。
 何を云われても感じの無い様な男を捕えて恭がツケツケと軽口に悪口を云うのを辛く聞きながら、一日淋しそうにコトコトと働いて居るお久美さんには誰も気を付けなかった程、重三は家内の者の注意を一身に集めて、何ぞと云っては小女にまでからかわれて居た。
 お関は、どうかして見掛けだけでも気の利いたらしい若者に仕立てたがって、わざわざ自分で町へ出て流行ると云う鍔の狭い帽子を買って来たり、恭の着る様な白いシャツを着せたりして居たけれど、身装が恭に似て来れば来る程、掛け離れて気の廻りの鈍いぼんくらな取りなしが目立って来た。
 恭にはチョクリチョクリと芝居を打たれ、楽しみに頼りにもと思って連れて来た息子は人前にも出されない様だし、※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子の祖母へ云い訳の立たない事をして居るのでお関は、朝から晩まで家を外に出歩いて、近くに出来る水道の貯水池の地所を買い占めに口を利いてやっさもっさして居る主人
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