に付け込む男の勢力の強い事をお関は怖れずには居られなかった。
 今にきっと何か起る。
 お関は重三と自分の生命にさえ不安を感じて冷やかな刃がぴったり差しつけられて居る様に感じた。

        十三

 お関は一かどでは無い苦労を仕ながら重三に段々西洋洗濯を覚え込ませ様とした。
 彼那恭の傍へ置くのは気味が悪くも有ったけれ共、又他所へでも頼めば其れを根にも持とうかと云うので臆病に成ったお関は、子供に云う様に、
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「恭は長くも居る者だしよく飲み込んでも居るしするから、よくお前云う事を聞いて覚えてお呉れ。
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と云って重三に洗い方から習わせた。
 重三は半分其の仕事を馬鹿にして居たし、呼吸の大切な節々を中々腹に入れないので、夕食の後主屋で皆が集まって居る時などわざと恭はお関に、
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「ねえお内儀さん、
 私はこの大坊ちゃんを持て余して居ますよ。
 さっき覚えるともう今皆どっかへすっぽかして来るんですからね。
 やり切れたもんじゃあない。
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等と云って嘲笑っても赤い顔をするのはお関とお久美さん丈で当人
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