てお関の醜い間誤付いた様子を思い出して居た。
 恭吉は元よりこんな貧亡[#「亡」に「(ママ)」の注記]な有っても無くっても同じ様な家を欲しい等とは夢にも思っては居なかった。
 やると云われても此方から逃げたい様であったけれ共、重三の来た事を好い機会に今まで一杯にたまって居たお関に対しての不快な胸の悪くなる様な憎しみを爆発させる材料に使って居るまでの事で有った。
 恭は、自分の打つ芝居にお関が巧く乗って来て、講談本で読んだ通りの啖呵を切ると、丁度書いてあった通りの様子に出て来るのが面白かった。
 シャツに鏝をかけながら、
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「あれでもう少し云ってやって、
 『さあそんなに恨みなら斬るなり突くなりしておくれ』
 とぶっつかって来ると面白いな。
[#ここで字下げ終わり]
とさえ思って居た。
 お関は恭の心を知る事は出来なかった。
 真個《ほんと》に自分が家をもらう積りに成って居た所へ重三が出て来て目算をがらりと崩して仕舞ったのを恨んで居ると外思えなかったので、非常な不安が湧き立って、恭を巧く納得させるか自分か重三が身を引くより仕様がないとまで思った。
 只一つ自分の弱味
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