、邪魔に成ったら早速お払い箱か。
そいじゃあすみますまいよ。
私もこんな事こそ仕て居るが男一匹です。だまって、はいそうですかと云えると思ってなさるんですかね。
年よりゃあ此れでも苦労人ですよ。
そんなお坊っちゃんじゃあ有りませんや。
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お関は真青な顔をして下を向いて黙って居たが、いきなり頭を上げると噛み付く様に鋭い声で、
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「お前、人を強請《ゆす》る気だね。
若しそんな事をすりゃあ、只じゃあ置かないよ。人を馬鹿にして。女だと思って馬鹿にするんだろうが、いくら女だって霊いが有るよ。
主人は主人さ、人面白くもない。
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と傍に有った物尺を握って神経的に口元をビクビクと震わせた。
恭は皮肉に笑いながら、
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「お内儀さん、
一寸の虫にも五分の魂ってね。
そう踏みつけてもらいますまい。
貴女の蒔きなすった種は貴女が刈りなさるのさ。
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と云ってニヤニヤしながら又洗場の方へ行って仕舞った。
恭は愉快で有った。
重い鏝の火加減を見ながら口笛を吹いたり唄を唄ったりし
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