るで三春の馬車屋っても有りゃしない。
「何だね、そんな毒口を叩いて。
 彼れだって主人格な男なんだよ、お前から見れば。
 そんなにつけつけ云ってお呉れでないよ。
「有難い御主人さね、へっ。
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 恭は地面に叩きつける様に唾を吐いた。
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「まあお前、今日はどうかして居るね。
「もうとっくに如何うか仕て居ますよ、
 御陰様で。
 ねえ、お内儀さん、
 彼の重三って人を貴女は後とりに定めたんですか。
「そうさね、
 定めずに連れて来る者は居ないじゃないか。
「へえ、そうですか。
 あんな薄馬鹿にゆずるんですか。
 そいじゃあ一体私はどうなるんです。
 このまんま御払い箱はひどすぎますぜ。
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 お関は急に今までの恭の様子がすっかり飲み込めた。
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「何だね、そいじゃあお前は此の家を望んで居たんだね。
「あたり前ですよ。
「そんな事って有りゃあ仕ない。
 そりゃあ余りだよ。
 第一そんな事が有っちゃあ御先祖にすまないじゃあないか。
「そいじゃあ何故貴女彼那事を仕たんですえ。
 好きな時には勝手に慰んで居ようが
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