廻す様な事を云わない者でもないし、其の口止めとして恭の満足する丈の金をやる事もお関の今の有様では出来なかった。
相談する者も無くてお関は独りで思い惑いながら爆裂弾を抱えて火の傍に居る様な思いをして居た。
丁度お久美さんを使にやり、主人と重三は町へ出て行った留守で有った。
お関は恭と二人限り此の家に居る事を少くなからず不安に思いながら主屋で洗濯物を帳面に付けて居ると、洗場の方からブラリとやって来た恭は暫く黙って立って居たが、やがて縁側に腰をかけると何となし意味の有りそうな笑いを浮べながら、
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「ねえお内儀《かみ》さん。
一体彼の重三さんてえのはどうした人なんです。
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と云い出した。
お関は努めてせわしそうに帳面から目を放さずに、
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「重三かえ、
どうした人ってお前家の養子だろうじゃあ無いか。
何か彼れがしたかい。
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と非常な不安を以て云った。
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「いいえ何も仕た訳じゃあ有りませんがね、
恐ろしくおのろですぜ。
よく彼那のを養子になんか仕なさいましたね。
ま
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