スラスラと運んで行って、何と云っても憎かろう筈の無い実の子を大びらに家に入れる事の出来たお関はそりゃあ満足して居たには違いなかったけれ共、一方恭吉が自分に向ける意味有り気な眼を気に掛けずには居られなかった。
 何か不満が有るらしく、自分が何か云っても太《ふ》てて鼻歌で行って仕舞ったり、わざと聞える様に重三の悪口を云ったりする様子がお関には不安で有った。
 若しかすると重三のことをすっかり知って居るのでは無[#「無」に「(ママ)」の注記]るまいかと云う怖れ。
 自分が恭に向って仕向けた種々の事を自分から洩す魂胆をして居るのでは有るまいかと云う不気味さ。
 非常に多くの弱味を持って居るお関は、恭がジーッと自分を見守る目から逃れる気味に成って居た。
 今まで何事も控目に仕て居た恭吉は主人が居ない様な時には昼日中《ひるひなか》あたり介わずにお関に小使をねだったり何と云っても仕事を仕ずにゴロンとなって講談本か何かを読み耽ったりする様に我儘になり出した。
 お関は如何うして好い者か恭に就いてはほとほと困って居た。
 只解雇しても好いには好いかも知れないけれど、それを不服な男が何といって此の家を掻き
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