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「山田さんでは妙な事ばっかりなさいますんですね。
 今度の御養子の事だって何にも伺って居ませんでしたのにいきなり先日その御養子さんとかを御連れなすって御披露なんですものねえ、御隠居様。
 それに賤しい事を申す様ですけれ共、彼あ云う御縁組をなされば何は無くても知り合いを集めて御酒の一杯も御出しなさるべきですのにね。
 そんな事もまるで無かった様でございますよ。
 御夫婦とも左様《そう》申しちゃ何ですけれど一寸変って被居《いら》っしゃいますから無理もありませんでしょうが。
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等と云う者が少くなかった。
 人が勝手に好きでする事を矢鱈に干渉して自分の徳に成るでもない事を一生懸命に云って居るのを※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子は可笑しくも思ったけれ共実際其の唐突な事の成り行きと彼《あ》の妙な重三の事を思うと変に考えずには居られない様でもあった。
 単調な明暮に倦いて居る者は好い事にして騒がしく彼此と噂して居た。
 山田の家も此の重三が入ってから種々混み入った様子に成って来た。
 自分がフト思い付いた事が、自分の予期以上に
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